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佐賀地方裁判所 昭和42年(ワ)283号 判決 1968年11月20日

主文

被告有限会社東亜建設は原告に対し、金四九〇万七、〇〇〇円およびこれに対する昭和四二年九月一日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

原告の被告有限会社東亜建設に対するその余の請求およびその余の被告らに対する各請求をいずれも棄却する。

反訴原告の請求を棄却する。

訴訟費用中本訴に関する部分はこれを六分し、その一を原告の、その余を被告有限会社東亜建設の各負担とし、反訴に関する部分は反訴原告の負担とする。

この判決の第一項は、原告において金一六〇万円の担保をたてたときは、仮りに執行することができる。

事実

第一、当事者双方の申立て

一、本訴につき

(一)  原告

1、被告らは原告に対し、連帯して、金五九七万九、五〇〇円およびこれに対する昭和四二年九月一日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2、訴訟費用は被告らの連帯負担とする。

との判決ならびに仮執行の宣言を求めた。

(二)  被告有限会社東亜建設(以下単に東亜建設という。)、同本田美照、同有限会社古賀組(以下単に古賀組という。)同岡本政喜、同村上倉雄

原告の請求を棄却する。

との判決を求めた。

二、反訴につき

(一)  反訴原告

1、反訴被告は反訴原告に対し金一〇七万六、三四〇円およびこれに対する昭和四二年八月二五日から支払いずみまで年六分の割合による金員を支払え。

2、訴訟費用は反訴被告の負担とする。

との判決ならびに第1項についての仮執行の宣言を求めた。

(二)  反訴被告

1、反訴原告の請求を棄却する。

2、訴訟費用は反訴原告の負担とする。

との判決を求めた。

第二、当事者双方の主張

一、本訴

(一)  原告の請求原因

1、原告は昭和四二年五月八日被告東亜建設との間で、原告を注文者、同被告を請負者として次のような建設工事(以下この工事を本件工事という。)の請負契約(以下この契約を本件請負契約という。)を締結した。

工事名称  ホテル久良重新築および在来建物一部改築工事

工事建設場所  佐賀市神野町東神野九三一番地

工事概要    鉄筋コンクリート造地上三階建

床面積の規模  新築  地階九一・九〇〇平方メートル

一階一一二・九四七平方メートル

二階二五七・六二〇平方メートル

三階二四三・八七〇平方メートル

改造  二階四八・〇〇〇平方メートル

工事金額    金二、九〇〇万円

支払方法    契約時に工事金額の三〇パーセントを支払う

残金は工事出来高払い

工事着手    昭和四二年五月八日

工事竣工    同年一〇月三一日

工事引渡    同年一一月一〇日

特約 (1)    当事者は相手方の承諾を得なければ第三者をして当事者の地位を承継させてはならない。

(2)    注文者が工事金の支払いをしないときは請負者は工事を中止し、かつ、支払期日の翌日から一日につき金一五万円の割合の損害金を支払わなければならない。

(3)    請負者が期日内に工事を竣工できないときは一日につき金五万円の割合の損害金を支払わなければならない。

2、被告本田美照、同古賀組、同岡本政喜、同今村浩士、同村上倉雄は原告に対しいずれも本件請負契約にもとづく被告東亜建設の債務につきその契約の日に連帯保証をなした。

3、そして、原告は被告東亜建設からの請求に応じ本件工事代金の内払いとして同被告に対し昭和四二年八月七日までに合計金九三七万九、五〇〇円を支払つた。

ところが、被告東亜建設は同年八月一二日までに、同日までの契約上の出来高予定工事の半分にも達しない工事遅滞を生じ、かつ、前渡金として原告から受取つた右金額のうちおよそ半額を本件工事以外の自己の他の債務等の支払いに充てたため本件工事の進行ができず、同日遂に工事を中止した。

4、そのため原告は被告東亜建設に対し、再三にわたり本件工事の遂行を催促し、かつ、工事の遅滞分を即急に追行すべく推告し、また連帯保証人であるその余の被告らにもその事情を通告した。

しかるところ、被告東亜建設は同年八月二三日本件工事の遂行不可能を宣して、原告に対し、次のような条件をもつて陳謝するとともに本件請負契約の解除の申入れをなした。

(1) 既済の工事部分を出来高金四〇〇万円に評価することに合意すること。

(2) 前渡金のうち右評価額を超過する金員を原告に返還すること。

(3) 既済の工事部分は即日引き渡すこと。

そこで、原告は諸般の事情を考慮して被告東亜建設の右申入れを承諾した。

そして、原告は即日同被告から既済の工事部分の引渡しを受け、かつ、同月下旬頃、前渡金九三七万九、五〇〇円から工事出来高金四〇〇万円を差し引いた金五三七万九、五〇〇円および前記本件請負契約の特約にもとづいて工事中止日から解約日までの一二日間の違約金として一日金五万円の割合による金六〇万円を同月三一日までに支払うよう通告し、かつ、連帯保証人であるその余の被告らに対してもその旨通告した。

しかるに、被告らは今日まで右金員を支払わない。

5、よつて、原告は被告らに対し、各自、右金五九七万九、五〇〇円とこれに対する昭和四二年九月一日から支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

(二)  被告東亜建設、同本田美照の答弁

1、請求原因の1の事実は認める。

2、同2の事実のうち、被告本田美照に関する部分は認める。

3、同3の事実のうち、被告東亜建設が原告から本件工事代金の内払いとして金八八七万七、〇〇〇円の支払いを受けたこと、同被告が右受領金員の中約三〇〇万円を本件工事以外の自己の他の債務の支払いに充てたことは認めるが、その余の事実は否認する。

4、同4の事実のうち、原告から被告東亜建設に対し本件工事追行の催告があつたことは認めるが、その余の事実は否認する。

原告から被告東亜建設に対し昭和四二年八月二三日に、本件請負契約を解除する旨の申込みがあつたので、同被告はこれを承諾し、じ後本件工事は原告の直営工事とすることに話合いができたので、その翌日の二四日に同日までの既済工事を原告に引き渡したものであり、その既済工事の出来高評価額は金六三八万八、〇〇〇円であり、また工事現場に残置した資材、道具が金三〇〇万九、〇〇〇円相当であるから、同被告としては原告に対し前記受領した本件工事代金を返還すべき義務はない。

(三)  被告古賀組の答弁

1、請求原因1の事実は知らない。

2、同2の事実のうち、被告古賀組に関する部分は否認する。もつともコンクリート打上げ工事までの工事保証人として保証したことは認める。

3、同3、4の事実はいずれも否認する。

(四)  被告村上倉雄

1、請求原因1の事実は認める。

2、同2の事実のうち、被告村上倉雄に関する部分は否認する。

3、同3の事実は知らない。

4、同4の事実のうち、原告から被告村上倉雄に対し、原告主張のような通告があつたことは認めるが、その余の事実は知らない。

(五)  被告岡本政喜は本件第一回口頭弁論期日に出頭したが、原告の請求原因につき認否をしない。

(六)  被告今村浩士は適法な呼出しを受けながら、本件口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面を提出しない。

二、反訴

(一)  反訴原告の請求原因

1、反訴被告は昭和四二年五月八日訴外東亜建設に対し、佐賀市神野町東神野九三一番地の鉄筋コンクリート三階建、床面積一階一一二・九四七平方メートル二階二五七・六二平方メートル三階二四三・八七平方メートルの建築工事を代金二、九〇〇万円、竣工期日昭和四二年一〇月三一日の約で請け負わせた。

2、しかるところ、反訴原告は、昭和四二年七月一九日、東亜建設から右工事のうち、仮設、土工、型枠、コンクリート等の工事を代金三二七万円、竣工期日昭和四二年一〇月三一日の約で請け負つた。

3、そして、反訴原告は東亜建設が購入すべき金一〇七万六、四三〇円の右工事の建築資材を立替購入し、建設現場に持込んだ。しかるところ、反訴被告は昭和四二年八月二三日反訴原告に対し前記東亜建設との請負契約を解除した旨の通知をしたうえ、不法にも反訴原告の所有である右工事の建築資材全部を掠奪した。

4、よつて、反訴原告は反訴被告に対し、請求の趣旨記載のとおりの金員の支払いを求める。

(二)  反訴被告の答弁

1、請求原因1の事実は認める。ただし、その請負契約の内容は本訴の請求原因1の記載のとおりである。

2、同2、3の事実はいずれも否認する。

第三、証拠関係(省略)

理由

第一、本訴についての判断

一、被告東亜建設に対する請求について

(一)  原告主張の請求原因1の事実については、当事者間に争いがない。

(二)  原告は、被告東亜建設に対し昭和四二年八月七日までに本件工事代金の内金九三七万九、五〇〇円を支払つたと主張するので判断するに、成立に争いのない甲第二号証によると、原告は被告東亜建設に対し、本件工事代金として、昭和四二年六月一〇日に金三〇〇万円、同月一九日に金五〇〇万円、同年八月二日に金七五万円、同月三日に金三万円、同月七日に金一二万七、〇〇〇円、合計金八九〇万七、〇〇〇円を支払つたことが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はなく、また原告が被告東亜建設に対し本件工事代金として右認定の金額を超える金員を支払つたことを認めるに足りる証拠もない。(右甲第二号証によると、原告は被告東亜建設に対し、本件工事に関し合計金四七万二、五〇〇円の材料代等の立替をしていることが認められるが、これらは本件請負契約にもとづく工事代金とは認められない。)

(三)  成立に争いのない(ただし金額記載部分については証人馬場哲行の証言によりその成立を認める)甲第二号証、成立に争いのない同第五号証、証人馬場哲行、山崎利彦、篠木勝の各証言ならびに原告本人および被告本田(後記措信しない部分を除く。)各本人尋問の結果に弁論の全趣旨を総合すると、被告東亜建設は昭和四二年六月頃から本件工事を施行していたところ、同年八月中旬頃に至り資金難からその続行が困難な状態となつたので、原告と被告東亜建設は話し合いのうえ、本件請負契約を解除することとし、同月二四日、それまでの本件工事の既済工事部分の出来高を金四〇〇万円と評価し、被告東亜建設は原告に対し既済工事部分を即日引き渡し、かつ、すでに受領した本件工事代金内金のうち右評価額を超える金員を早急に返還することとして、本件請負契約を解除する旨の契約(合意解除)をなしたことを認めることができ、被告本田本人尋問の結果中右認定に反する部分は措信し難く、ほかに右認定を覆えすに足りる証拠は存しない。

(四)  そうだとすると、被告東亜建設は右合意解除により、原告に対し、前記認定の既受領本件工事代金八九〇万七、〇〇〇円から右出来高評価額の金四〇〇万円を差し引いた金四九〇万七、〇〇〇円を返還すべき義務を負つたものといわなければならない。

(五)  次に、原告は、本件工事請負契約の特約にもとづき被告東亜建設は原告に対し違約金と金六〇万円を支払うべきであると主張するが、右特約とは請求原因1記載の特約(3)を指すものと解されるところ、これは工事期間内に工事の竣工ができなかつた場合の損害金の特約であるから、前記認定のとおり工事期間内にその途中で合意解除されている場合には適用されないものであり、また本件のように契約が合意解除された場合には、その解除の際に特約がないかぎり損害賠償請求権は発生しないところ、そのような特約がなされたことの主張、立証のない本件においては原告に損害賠償請求権を生ずるに由なく、いずれにしても原告の右主張は理由がない。

(六)  成立に争いのない甲第四号証によると、原告は昭和四二年八月二六日付内容証明郵便をもつて被告東亜建設に対し、同被告に支払つた本件工事代金内金九三七万九、五〇〇円から工事出来高評価額金四〇〇万円を差し引いた金五三七万九、五〇〇円を同月三一日までに返還するよう催告し、右郵便はおそくとも同日までには被告東亜建設に到達したことを認めることができ、右認定に反する証拠はない。

(七)  被告東亜建設は、本件工事現場に金三〇〇万九、〇〇〇円相当の資材、道具を残置したと主張するが、右主張事実のみでは、原告に対する前記金四九〇万七、〇〇〇円の返還義務を免れうる事由となるものではない。

(八)  以上の次第であるから、被告東亜建設は原告に対し金四九〇万七、〇〇〇円とこれに対する催告期限の翌日である昭和四二年九月一日から支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払わなければならない。

よつて、原告の被告東亜建設に対する請求は右認定の限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから棄却する。

二、被告本田美照、同古賀組、同岡本政喜、同今村浩士、同村上倉雄(以下これら被告を被告本田らという。)に対する請求について

(一)  原告の被告本田らに対する前渡金返還の請求についての主張は、要するに、被告本田らはいずれも原告と被告東亜建設との間の本件請負契約にもとづく同被告の債務につきその契約の日である昭和四二年五月八日に連帯保証したところ、原告は被告東亜建設に対しその後本件工事代金の内金九三七万九、五〇〇円を前渡ししたが、同年八月二三日原告と同被告との間で(1)既済の工事部分を出来高金四〇〇万円に評価する、(2)同被告はすでに受領した前渡金のうち右評価額を超える金員を原告に返還する、(3)既済の工事部分は即日引き渡す、ことを約して本件請負契約を合意解除したので、被告本田らは連帯保証人として、原告に対し右前渡金九三七万九、五〇〇円から右工事出来高評価額金四〇〇万円を差し引いた金五三七万九、五〇〇円を支払うべき義務(原状回復義務)がある、というものと解せられる。しかしながら、契約の解除による原状回復義務は契約の解除によつて新たに発生する債務であつて解除された契約の連帯保証人は特約がないかぎりその解除による原状回復義務については保証の責めを負わないものである。したがつて、原告の右主張についてはその事実の存否を判断するまでもなく、それ自体失当であるといわなければならない。

(二)  次に、原告の被告本田らに対する違約金の請求についての主張に対する判断は、前記一の(五)に記載したところと同一であつて、右主張も失当である。

(三)  よつて、原告の被告本田らに対する各請求はいずれも理由がないから棄却する。

第二、反訴についての判断

(一)  反訴請求原因1の事実については当事者間に争いがないところ、反訴原告は、反訴被告は右工事現場から反訴原告所有の金一〇七万六、四三〇円相当の建築資材を不法に奪取したと主張するが、丙第六ないし一五号証(同第八号証は同第二号証の一と、同第一〇号証は同第二号証の四と、同第一四号証は同第二号証の二と、同一五号証は同第二号証の三とそれぞれ同一)ならびに証人田中儀一、下田利弘(第二回)の各証言によるも右主張事実を認めるに足りず、ほかにこれを認めるに足りる証拠はない。

(二)  よつて反訴被告の原告に対する反訴請求は理由がないから棄却する。

第三、訴訟費用および仮執行の宣言

本訴訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条本文、第九三条第一項但書を、反訴訴訟費用の負担につき同法第八九条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条第一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

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